旧日本海軍の名機「紫電改」、移設へ…
劣化で寄付呼びかけ「無言で語り伝える力は無限」と目標達成

2025/08/19 読売新聞

 国内に唯一現存する旧日本海軍の戦闘機「紫電改」の移設費用を調達しようと、愛媛県が実施したふるさと納税型クラウドファンディング(CF)は10日、目標の3800万円を達成した。7月1日から寄付を募り、貴重な戦争遺産を後世に残す取り組みが共感を呼んだ。県は9月5日の受け付け終了に向け、新たな目標を5700万円に設定し、協力を呼びかける。(辰巳昌宏)

当時の航空技術の粋を詰め込み…『紫電改のタカ』漫画にも


新展示館への移設が予定される紫電改(愛媛県愛南町で)

 紫電改は1979年、愛南町の海底から引き揚げられ、80年から同町の展示館で無料公開。施設は老朽化し、機体も劣化しているため、県が隣接地に新展示館の建設を計画した。

 だが、機体が移設の際に壊れる恐れがあって費用は想定以上に膨らみ、県がCFを実施。使い道は、▽機体補強▽機体を支える台座製作▽クレーンによる移設作業――の3点とした。

 困難なプロジェクトに注目が高まり、寄付は1000万円をわずか3日間で突破。残る2800万円も受け付け終了まで20日以上を残してクリアした。

 寄付者の8割が県外で、応援のコメントが続々と届く。「この機体が無言で語り伝える力は無限」「戦争はどういう物か未来の為に残すべきだ」と意義を語る内容のほか、「海から引き揚げられる様子をテレビで見た」「漫画『紫電改のタカ』に感銘を受けた」と懐かしむ声もあった。

 18日午後7時現在、1981人から4458万円が集まる。3800万円を超えた寄付は、資料のデジタル保存や紫電改の3D化などに充て、移設作業は2026年度に行う。

 県都市整備課の担当者は「実戦で使われた国内に残る1機を元の形のまま未来へ残すというメッセージが支持を得られたのだと思う。戦後80年という節目の年であったことも後押しとなった」とみている。

機体補修図をデジタル化して公開へ

 紫電改を巡っては、1979年に海底から引き揚げられた直後に行われた機体補修の図面が県庁の倉庫で確認され、7月の日本航空協会による重要航空遺産の指定につながった。

 太平洋戦争末期に約400機が製造された戦闘機で20ミリ機銃4門を備える。小型高出力エンジンを搭載するなど、当時の日本の航空技術の粋を詰め込んだ。


発見された紫電改の補修図

 県によると、県が実施した補修事業の記録はなく、どのように補修されたのか判然としていなかった。県が機体移設の検討を始めた際に古い資料を探したところ、2023年夏頃に県庁の倉庫で、補修事業を担当していたとみられる県職員の資料を確認。引き揚げ・補修事業の作業書や当時の機体の写真など約30点があったという。

 補修図を作成したのは、県から補修事業の委託を受けた兵庫県宝塚市の「新明和工業」。戦時に紫電改を製造していた川西航空機の後身だ。機体の全体図が記され、胴体や主翼、尾翼に補修部分が細かく書き込まれている。120か所にも上り、大がかりな補修が加えられた状況が浮かぶ。

 重要航空遺産の指定に向けては、日本航空協会から県に機体のオリジナル部分を明示するよう促されていたため、補修図を資料とした。日野友・県都市整備課担当係長は「補修図がなければ県が独自に調査する必要があった。遺産の認定につながった」と話す。

 補修図など確認された資料は今後、デジタル化するなどし、機体を移設する展示館で公開する予定だ。(脊尾直哉)